大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(く)94号 判決

本件抗告理由の要旨は、被告人佐藤曽清、同八田耕作に対する昭和二十五年政令第三百二十五号違反被告事件について弁護人は刑事訴訟法第十九条により移送の請求をしたところ、昭和二十六年十一月六日前橋地方裁判所裁判官細井淳三は決定を以てこれを却下したが、この決定により著しく利益を害せられる場合と考えられるから本件即時抗告の申立をする、というにある。

そこで記録を調査すると、右被告人らに対する前橋地方裁判所昭和二十六年(わ)第一一七号昭和二十五年政令第三百二十五号違反被告事件の第二回公判において、弁護人から当該事件の審理に当つた裁判官細井淳三は刑事訴訟法第六十条の規定による処分を行つており、事件について既に予断をいだいているから審理をするのに適当でない。との理由により事件を同裁判所の合議部に移送すべきことを請求したところ、同裁判官は検察官の意見を聴いた上、刑事訴訟法上の裁判所には二種類の意義があり、その一は刑事訴訟法上当該事件を審理裁判する裁判所をいい、その二は裁判所法に規定されているいわゆる裁判所を指すものであるが、刑事訴訟法第十九条にいう裁判所とは裁判所法にいうところの裁判所と解すべきであり、細井裁判官によつて構成する前橋地方裁判所以外の他の裁判官によつて構成する前橋地方裁判所と解すべきではない。したがつて前橋地方裁判所から前橋地方裁判所へ移送するということは無意義である。なお当裁判官は合議裁判所で審理裁判するという決定をする権限がない。との理由で右弁護人の請求を理由のないものとして却下する旨の決定を宣したことが認められる。よつて先ず本件につき刑事訴訟法第十九条の適用があるかどうかについて検討するに、地方裁判所において或る事件を一人の裁判官が取り扱うか、合議体でこれを取り扱うかは裁判所法第二十六条の規定するところによるべきであつて、本来一人の裁判官で取り扱うべき事件、即ちいわゆる一人制の事件を合議体で取り扱うには、合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体ですることを要することは同条第二項第一号の明定するところであるから、単独裁判官はみずからその取り扱うべき事件を検察官若しくは被告人の請求によると又職権によるとを問わず、合議体で審理及び裁判すべきことを決定する権限がなく、したがつてこれと同一内容を持つ移送の決定はこれをなしえないものというべきであり、この場合刑事訴訟法第十九条の規定は適用の余地がないものといわなければならない。

されば単独裁判官に対し本件一人制の事件を合議体で審理及び裁判すべきことの決定を求めるに帰する弁護人の請求は刑事訴訟法第十九条に基く移送の請求とは認め難いのであるから右請求は既にこの点において失当であつて、却下を免れないものといわなければならない。よつてこれと同趣旨に出で、弁護人の本件請求を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、刑事訴訟法第四百二十六条第一項に則りこれを棄却すべきものとする。

よつて主文のとおり決定する。

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